最前線の海の安全対策システム
【よびもり】の導入率が高い
北海道・ウトロ地区に勉強に行ってきたよ!
取材協力◎株式会社よびもり/https://yobimori.com/
◎ゴジラ岩観光/ https://kamuiwakka.jp/

[PART2 ゴジラ岩観光の取り組み]
写真と文/立川 宏
安全対策にゴールはない
知床半島の西岸に位置する『ウトロ港』。
知床半島の東岸に位置する『羅臼港』。
両港に出船基地を持つ『ゴシラ岩観光』は
知床を代表する人気観光船だ。
ウトロ港側の事務所内の壁には、
ヒグマがシャケを獲っている写真、
ヒグマが水浴びをして遊んでいる写真などが飾られている。
どの写真も知床の豊かな自然を象徴している。

国立公園でもあり世界遺産でもある知床地域は
陸路の開発が制限されている。
そのため知床の豊かな自然を楽しむためには
海から知床半島を見学できる観光遊覧船が適している。
神尾:「春から初夏にかけての季節に、
羅臼発の観光船に乗っていただければ、
高確率でシャチやマッコウクジラを間近で見ることができますよ。」

シャチを間近で観察する乗客(画像提供:ゴジラ岩観光 https://kamuiwakka.jp/)
壁に飾られているヒグマの写真を眺めていた
タカピーとごっとりくんに、
ゴジラ岩観光統括部長の神尾昇勝さんが教えてくれた。
ごっとりくん:「シャチですか? それは凄いですね。」

羅臼港と2頭のオスのシャチ(画像提供:ゴジラ岩観光 https://kamuiwakka.jp/)
神尾:「ええ。さらに真冬になると羅臼港発の観光船で
天然記念物のオオワシとオジロワシを見ることができます。
ゴシラ岩観光では、シーズン中(2月1日~3月末日)は
撮影のための特別船を出しています。
みなさん立派な望遠カメラ持参で、ご乗船されています。」

オオワシ(画像提供:ゴジラ岩観光 https://kamuiwakka.jp/)
タカピー:「オオワシとオジロワシですか♡」
大の猛禽類好きのタカピーの目が、一瞬でハート型に変わった。
千葉:「予想以上の数のオオワシとオジロワシがいます。
ご覧になった方は、みなさま、あまりの数の多さに驚かれています。」
タカピーの目が、さらに分かりやすいハート型になった。
この瞬間に、タカピーが来季の冬の乗船を決意したことは
誰から見ても明らかだった。
ごっとりくん:「真冬の海水温はかなり低いですよね。」
神尾:「ええ。流氷に覆われるので、
真冬の平均海水温は-0.5~2℃くらいです。
このあたりは年間平均でも海水温は8.8℃くらいです。」

ゴジラ岩観光統括部長・神尾昇勝さん
ごっとりくん:「万が一にでも海に落ちたらかなり危険ですね。」
神尾:「はい。大変危険です。」
一般的に海水温8.8℃の海に落水した場合、
意識喪失までの限界時間は30分と言われている。
そして、生存可能時間は1~3時間が限界だと言われている。
さらに最初の数十秒でコールドショックを起こしてしまう危険もある。
コールドショックとは、冷水に突然入ることにより
過呼吸をおこし息が止まってしまう症状。
水温15℃未満で発症しやすいと言われている。
神尾:「船の安全管理は徹底しています。万が一にも落水ということが起きないように、観光船の柵の高さなどは、安全基準で厳密に定められています。そのため弊社では落水事故が起きたことはありません。万が一の場合の通信手段や救命ボートの設置も、徹底して備えています。ですが、それでも海は怖いです。」
ごっとりくん:「安全対策はゴシラ岩観光さんのホームページでも拝見することができますよね。確かに徹底された安全対策だと思います。」
神尾:「安全対策にやり過ぎと、完璧はありません。
お客様の命をお預かりしている責任は、果てしなく重たいです。
よびもりシステムを導入させていただいたのも、
お客様のさらなる安全担保のためと、
ご乗船いただくお客様の不安を少しでも解消できましたら、との思いからです。」

タカピー:「よびもりシステムとは、具体的にはどのようなシステムなのですか?」
神尾:「よびもりシステムは、
小型発信端末から、SOS信号と正確な位置情報を発信し、
その情報をアプリで共有するものです。
ウトロ港から出港する弊社の観光船を利用いただくお客様には、
専用の小型発信端末を首からぶら下げていただきます。
万が一、事故やトラブルに遭ってしまったとき、
発信端末の中央部にあるボタンを5秒間長押しします。
端末からSOS信号が発せられて、
正確な位置情報を知らせることができます。
どこに知らせるのか? と言いますと、
発信端末は専用アプリとセットになっていて、
スマホやPCに入れた専用アプリで、緊急SOS信号を即座に受信して
アプリ内の地図で、SOS信号が発信されている場所を
ピンポイントに正確に知ることができます。
近くにいる漁船や、弊社のような遊覧船が、
まっさきに救助へと駆けつけることができます。
現在ではウトロ港周辺の漁師さんも多数加入されています。」

よびもりの発信端末がSOS信号を発した場合は、専用アプリが即座に受信。写真の画面はデモンストレーション用
ごっとりくん:「相互救助システムですね。」
千葉:「まさにそうですね。海の事故の場合、
既存の救助システムだけでは
時間的に間に合わないケースもあります。
特に知床地域のような冷水域では
1分、1秒の違いが生死を分けてしまいます。
状況は一刻を争います。」

神尾:「ウトロ地域は、海上保安庁さんの基地が近くにないので、
既存の体制だけでは、どうしても救助速度に物理的な限界があります。
だからこそ、よびもりシステムが大切です。
ゴジラ岩観光では、ご乗船いただくお客様全員に
よびもりの端末を持っていただいております。
その分、少しだけご乗船の料金が高くなってしまいますが、
ご乗船いただくお客様は、ご納得していただける方が多いです。
我々と致しましても、お客様の命をお預かりしている以上、
安全対策で妥協することはできません。」

海の中の潮流は、船の上から眺めているだけでは
把握できないほど複雑で強い。
特に知床地域は、オホーツク海から南下してくる冷たい『親潮』と、
宗谷海峡を通過してオホーツク海に流れ込む『宗谷暖流』がぶつかり、
複雑な流れを形成する潮境区域でもある。
その上、断崖が多い急峻な知床半島にぶつかった反射波も作用して
より複雑で強い流れを作り出している。
船からの転落に限らず、なんらかの事故で海に落ちたら、
どの方向に、どれくらいの速度で流されてしまうのか
予測することは容易ではない。
神尾:「だからこそ、よびもりシステムが必須です。
ひとり一人の命は、なにものにも代えられません。
ひとたび海に落ちてしまったら、
ひとり一人が違う速度で、違う方向に流されてしまう可能性もあります。
ひとり一人の正確な位置
を把握することが、
全員の迅速な救助へとつながる
第一歩であることは明白です。
ですから、ゴシラ岩観光では、お客様全員に
よびもりシステムの端末を付けていただいた上での
ご乗船をお願いしております。」
2023年によびもりシステムを用いて行われた訓練では、
観光船から乗客が落水した想定で、端末付きのブイを海上に投下。
わずか11分で乗客に見立てた端末付きのブイを発見できた。
よびもりシステムが導入されている地域では、
事故発生直後から、位置情報が地域全体に配信され、協力した救助活動を始められる。
このシステムによって、助かる命がどれくらいあるだろうか?
神尾:「海に絶対はありません。
どんなに備えていても、どんなに注意していても、
何が起きるかわからないのが海です。
だからこそ、海を職場にして、
海のことを知り尽くしている漁師さんたちも
よびもりシステムを導入しています。
自分の命を守るため。
そして万が一、海で誰かが事故に遭ったとしても、
これ以上犠牲者は出したくない。
そのために自分たちができることは何でもやる。
そんな思いからウロトの漁師さんたちの多くが、
よびもりシステムを導入しています。
ウトロ地区だけではなく、
よびもりのような相互安全システムが
全国の海に広がってくれることを願っています。」

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